The Idiot, the Curse, and the Magic Academy

Chapter 98



俺は川の先を眺めてみる。

大きい川とはいえ、対岸はなんとか見えるのだが、川の下流も上流もどうなっているのかがまったくわからない。

「この先って何があるのかな?」

下流方向を指差しながら聞いてみる。

「川なんだから海だろ」

「多分、そうだろうね」

海があるのか……

いつか海にも行きたいな。

絶対にシャルは付き合ってくれないだろうけど。

「ふーん……じゃあ、ワニかトカゲを狩るか。どっちがいいとかあるか?」

「知らん」

「君次第だしねぇ……倒しやすいのはトカゲだと思うけど、森の中を探すのは一苦労だし、出てくるのを待つしかない。逆に見つけるのが簡単なのはワニじゃない? 水辺にいればそのうち襲ってくると思う」

なるほど。

「じゃあ、ワニだな」

「マジで『じゃあ』の意味を先生に聞いてこいよ……」

昨日、聞いたよ。

額を触られて熱を測られたわ。

クロエもチョコレートをくれたわ。

「いけるって。ケガしてもセドリックがいるし」

「デスローリングで腕を食いちぎられたらどうしようもないよ」

そん時は左腕にしてほしいね。

「よし、ちょっと水際に行ってみる」

「頑張れよー」

「気を付けてねー」

2人は手伝う気はないらしい。

まあ、泳げないって言ってたし、しゃーないか。

俺は仕方がないと思いつつ、水際に行き、川の中を覗いてみる。

しかし、川は流れているし、濁っているのでよくわからない。

「セドリックー、探知魔法は?」

「ごめん。水の中みたいな遮蔽物があるとわかりづらいんだよ。何しろその水も魔力を帯びているからね」

魔力を帯びた水か。

「魔水?」

「そうだね……ってよく知ってるね」

シャルが長々と早口でしゃべってたもん。

「まあなー……そうなると、難しいな。ずーっと川を見てないといけないわけ?」

「油断してると一気に飛び出してくるんじゃない? そんなアニマル番組を見たことあるよ」

俺もある。

鹿だったか馬だったかが襲われていた。

「ちょっとぱちゃぱちゃしてみるか……」

「ぱちゃぱちゃ?」

俺はその場にかがむと、手で水を叩いていく。

すると、水が擬音のようにぱちゃぱちゃと音を立てた。

「子供みたいだな」

「でも、有効かもね。動物が水を飲みに来る時に襲ってくるんだから」

だろー?

「他にもスーパーで肉を買ってきて釣りをするのはどうだろう――」

言葉を言い終える前に飛び上がる。

すると、自分がさっきまでいた真下には大きなワニがいた。

川から飛び出してきたのだ。

「マジでいきなりだな……」

そうつぶやきながら落ちていくと、ワニの背中にエルボードロップを放った。

すると、ワニがえびぞりになり、バタバタと暴れる。

そして、身を翻すと川の中に逃げ込もうとした。

しかし、ワニはじたばたと足を動かしているが、川に入ることはできない。

何故なら俺が尻尾を掴んでいるからだ。

「逃げん、なよっ!」

尻尾を掴んだまま振り回し、地面に叩きつけた。

すると、ワニは仰向けのまま動かなくなったので尻尾から手を離す。

「なんであれを躱せるんだろうね? 反応速度がおかしくない?」

「あいつ、サハラ砂漠でキャンプできそうだな」

2人が俺とワニを見比べながら呆れる。

「こんなもんはユイカでもできるわ。それよりもこのワニはどうすればいいんだ?」

処理の仕方とかまったくわからん。

「僕もわかんないからしまっておくよ。あとでクラウスのところに持って行こう」

「そうだな。そもそもワニが売れるかどうかも知らんし」

2人がそう言いながら近づいてくると、セドリックがワニを収納した。

「もう1匹狩るか?」

「とりあえず、1匹にしとけ。売れなかったらどうするんだよ」

「剥製にしてお前の部屋に飾るのはどうだ?」

剣とワニ。

強者の部屋だ。

「お前の部屋の方がスペースあるだろ」

「朝学校に行く時にビビるわ」

「俺も起きたらビビるわ」

確かに……

「じゃあ、次はトカゲか? 水を飲みに来るのを待てばいいんだっけ?」

「待つのも退屈だし、下流に向かって歩こうぜ」

「そうするか……」

俺達は下流に向かって歩くことにした。

「ツカサ、今度の魔法大会に出れば? 優勝を狙えると思うよ?」

歩いていると、セドリックが勧めてくる。

「どうかなー? 遠距離がネックなんだよなー。この前のラ・フォルジュさんとシャルの戦いを見ていると微妙な気がする」

「そんなもんは君のダッシュ力でどうにかなるでしょ」

なるかもしれんが、俺は魔法を知らなすぎるから無理な気がする。

だって、空を飛んだり、ワープするような連中だもん。

「うーん……優勝して金か単位をもらえるなら出ようとも思うが、そうじゃないなら出たくないなー。フランクやユイカならやれるが、イルメラはやれんわ」

「俺はいいのかよ」

当たり前だろ。

「殴り合って友情を確認するのが男の子だろ。漫画にそう書いてあったぞ」

「殴り合う? 俺にはお前が一方的に俺を仕留める絵しか浮かばんぞ」

「そこは頑張れよ」

武家の子だろ。

「無理無理。タイプの話をすると俺は接近戦が主だ。でも、根本は魔法使いなんだよ。要は接近して剣や魔法を使うタイプなんだ。だからお前やユイカみたいな特化した奴には地力の差が出るから弱い。イルメラも俺と同じだな」

そういえば、イルメラがユイカと相性が良くないって言ってたな。

「じゃあ、お前らはどんな魔法使いに有利なんだよ」

「会長やセドリックみたいな奴。魔法で防ぎつつ接近し、仕留める。まあ、鴨だな」

そうなんだ……

「鴨さんは?」

セドリックを見る。

「君みたいなのに強いね。ひたすら距離を取って魔法を撃ちこんでいけばいい」

「じゃあ、俺、優勝できないじゃん」

「いや、君は魔力と強化魔法が突出しているからその相性は関係ないよ。相性は同じ程度の魔力という前提があるからね。僕みたいな魔法使いが自分より魔力の高い接近戦タイプと戦うと悲惨だよ? 会長がそうだったでしょ」

シャルとトウコの決闘か……

「シャルが勝ったぞ」

「はいはい。でも、次やったらどうなるかわかるでしょ? あの決闘を見ていた皆がわかってるし、何なら君が一番わかってる」

多分、シャルはトウコに秒殺される。

シャルもそれをわかっているから二度とトウコと戦わないと勝ち逃げ宣言しているのだ。

「可哀想なシャル……」

「生徒会長は魔法大会に出ないでしょ。というか、イルメラはやれないけどユイカはやれるんだ?」

「あいつは好戦的でケロッとしてるからいけるだろ。イルメラは尾を引きそう」

ユイカとイルメラは同じような戦い大好きタイプだが、性格が違いすぎる。

というか、イルメラはあんな風にさばさばしてるけど、絶対にプライドが高いと思う。

「まあ、本人もそう言ってたね……イルメラは芯が強いからなー」

「だろ? その点、ユイカは大丈夫。プライドも何もない」

「ひどいこと言うね?」

「ソースは俺。お前らに俺達劣等生の気持ちはわかんねーよ」

この学校、優秀な奴しかいねーじゃん。

基礎学に家庭教師までつけて、必死に勉強してるの俺とユイカだけじゃん。

プライドなんか初日でどっかに旅立ったわ。

お読み頂き、ありがとうございます。

この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。

よろしくお願いします!



Tip: You can use left, right, A and D keyboard keys to browse between chapters.